ヨナオシクス

まったり三十代フリーライター(ワープア)が様々なことを調べています。主なソースはWikipediaとYoutubeです。

ブルース・リーとチャウシェスクの落とし子

数年前、「クレイジージャーニー」という番組でルーマニアの地下道に住むストリートチルドレンを取り上げていた。

 

マンホールの下の地下世界は注射針やシンナーなどが散乱し、多くの地下住民はHIV保有者だったという。彼らは歴史上有名な「チャウシェスクの落とし子」と呼ばれるストリートチルドレンだった。

 

そこで、住人を統率していたのが、鎖を体に巻き、自傷痕が至るところに見える「ブルース・リー」という異形の人物だった。それは、まるで北斗の拳の世界が現実に飛び出してきたかのようだった。

 

ブルース・リー」という名前はもちろん映画スターのブルース・リーに影響を受けてつけたものだったという。

 

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彼はドラッグを売買して得た金で他の住人の面倒を見ていたという。

 

地上に家を建設していて、ゆくゆくはそこに地下世界の住人を連れ出して暮らしていくと夢を語る場面で番組は終わっていた。

 

当時、番組を見て思ったことは「なぜこの環境でこんな聖人のような人間が生まれるのだろう」といったものだった。身の回りでも劣悪な環境にスポイルされる人間を多く見ていたのでとても不思議だった。

 

このストリートチルドレンを生み出したルーマニアとはどのような国なのだろうか。

 

ルーマニアといえばベルリンの壁が崩壊する1989年まで「チャウシェスク」という共産主義の独裁者が支配する国だった。

 

 

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元々チャウシェスクは反ファシストのアイコンとして共産主義活動に従事していた。政権を握ってからは独裁者へと転身し、共産国でありながら西側諸国とも交流を持つなど外交手腕に長けた人物だったようだ。

 

ただ、中国共産党と接点を持ったあたりから文化大革命などに次第に影響を受けるようになる。妻であったエレナ・チャウシェスク毛沢東の妻であった江青に憧れを抱いており背中を後押しされ政治の世界に足を踏み入れるようになる。

 

ちなみに、江青といえば文化大革命を実質的に主導した人物であったが、毛沢東と結婚するにあたり周恩来などの側近が「政治に参加させてはいけない」と進言していたという。そして、結果としてそれは正しかったようだ。

 

エレナ・チャウシェスクが政治に参加することで、その子供好きな性格が仇となってしまう。避妊と堕胎を禁止して5人以上の子供を生むことを義務化したことにより、育児放棄する者が後絶たず多くのストリートチルドレンを生み出してしまった。

 

また、孤児院に預けられた子供達は栄養状態に恵まれなかったため病気がちであり、子供を死なせると孤児院の給料を減らされることから大人の血液が輸血されたという。結果としてエイズに羅患する子供達が増えるなど悪夢の連鎖が続いていく。

 

バランス外交を上手く行っていたチャウシェスクだが、経済発展のために西側諸国から巨額の融資を受けその返済に窮したため、国内の経済政策がガタガタになり国家の破綻へとつながっていった。

 

チャウシェスクの話は高校か大学で知っていたが、「チャウシェスクの死」でルーマニア共産主義の話は幕を引いたのだと思っていた。しかし、二十数年後に登場したこの「ブルース・リー」のエピソードの中に本当の終わりがあったような気がした。

 

前回ポルポトの記事を書いていて「原始共産主義」について調べていた際、赤旗に投稿されたとあるQ&Aを見つけた。

 

原始共産制とは?

 

そこには原始共産主義についてこのような説明があった。

 

数百万年に及ぶ人類の歴史のなかで、支配する者と支配されるものの区別ができたのは、最近のほんの数千年の間のことにすぎません。それ以前に存在していた階級のない社会を、史的唯物論の立場から原始共産制の社会と呼んでいます。

 この段階では、社会全体の生産力が低く、みんなが力をあわせて働かなければ生きていけなかったために、「共存共栄」の関係にならざるをえませんでした。原始共産制の社会は、「共存共栄」の思想によってではなく、人々が生活していくうえでの客観的な条件によって生み出されたものです。

 

原始共産主義なんていうものは夢物語だと思っていたが確かに存在したのだと思う。

 

しかし、それを体現していたのは共産主義のリーダーではなく、その失策で生み出されたストリートチルドレンだったのだ。

 

ただ、その共存共栄の世界は思い描いていたような明るいものではなく、マンホールの下の薄暗いドラッグとHIVが蔓延する地獄の中にあったということなのだろうか。 

 

その後「ブルース・リー」は番組放映後間もなく逮捕され、地下世界は閉鎖され地上に建設されていた家も壊されてしまったという。

 

そこに人間がいる限り楽園は顕在しない。なぜなら「楽園」とは、その存在を夢想した人間が、おのれの生息範囲であるこの糞溜め=現実を裏返してみただけの反世界であるからだ。

 

中島らもがそう言っていた意味が少しだけ分かったような気がした。